「LOVE MAGIC」番外編3「メッセージ」
「猫神様、こんにちは!」
ある日、シロが仕事終了後に私の処へやって来た。
私は相変わらず此処に住んでいる洋平に世話になっている。
一日中この部屋にいるので、知り合いが訪ねて来てくれるのは、実は嬉しいのだ。
その知り合い、自体少ないのだから。
「お邪魔します。」
シロはいつもと変わらない笑顔と瞳の輝きで、
室内へと上がり込む。
その表情から、幸せだということが伝わってくる。
私はあまり、表に出さないから、お前のような素直さが少しだけ羨ましい。
それでも洋平はいいと言ってはくれるが。
「あっ。」
ふと、シロの持っていた鞄から、電子音が鳴った。
いつも洋平の傍で聞く音と似ている…。
まさか…シロの奴…。
「シロ…。」
「亮平からだ〜。」
「シロ、お前…。」
「へへっ…。」
私の予想は見事に的中した。
その画面に向かって、シロは眉毛を垂らして、瞳を細くしている。
悪い意味ではなく、だらしのない顔だ。
「それは携帯電話というものだろう?」
「あっ、ハイ、オレこの間亮平に買ってもらって…。」
私は深い溜め息を吐いた。
お前は何時からそんなに人間達の真似をするようになったのだ。
私はその機械が嫌いだ。
洋平との時間を、邪魔されることがあるからだ。
わかってはいる、洋平には洋平の世界がある。
私と全て一緒というわけにはいかない。
洋平は私の様に他に誰もいないわけではないのだ。
それに、このような小さなことを言ったら限がない。
私はそこまで小さな生き物ではない。
「電話ではないのか。」
「えっと、メールってやつです。」
メール、というのは、文字を電波で送るらしい。
そのようなものには興味がなかったが、どういうものか見てみたくなり、シロの持っている携帯電話を覗き込む。
「どのようなことを送っているのだ?」
「え、あの、好き、とか早く会いたい、とか??」
私は呆れてしまった。
それはそこまでして伝えることなのか。
早く会いたいと言うが、お前達も一緒に住んでいるだろうに。
そしてその心臓を模ったものは何だ、人間界で言うハートマークというものではないか。
「へへっ、これ、亮平と色違いなんだ〜。」
そんなにあの人間が好きなのか。
あの人間も、シロを思っているのか。
そうだろうな、それでなければ、シロにこんな表情をさせることは出来まい。
「猫神様も欲しいんですか?」
「な…、馬鹿な、何を…。」
「でも、言いにくいことも字だと言えるとかいいですよ。」
「言い難い…か…。」
そのシロを見ていると、突然そんなことを言われた。
私はそんな顔をしていたのだろうか。
確かに、文字なら顔も見えないが。
それでいいものなのか?
向き合って伝えるということが大事ではないのか。
「亮平が忙しい時とかでもできるし、それに、言うだけじゃオレ、足りない時あって…。」
シロは僅かに切なげな表情になる。
いつも傍に居て欲しい、以前あの人間と喧嘩をして家を出て来た時、そう言っていた。
そうか…伝えないと溢れてしまう程なのか、お前の思いは。
それと、送ることでその寂しさが和らいでいるのだろう。
それは確かに便利なものかもしれないが…。
「んじゃあオレ亮平から洋平に言ってもらう!」
「要らぬ!余計なことはしなくてよい!」
柄にもなく、慌ててしまう。
そんなことをされて、帰って来た洋平とどのように接しろというのだ。
恥ずかしいにも程があるだろう。
「きっと洋平も猫神様からメール来たら喜びますよ!」
「いや、しかし…。」
シロはまるで自分のことの様に瞳を煌かせている。
本心を言うと、少し、本当に少しだけ、欲しいと思ってしまったが、勿論それは口にすることは出来ず、丁重に断ったのだった。
断った…筈だったのだが。
その日、いつもより一時間程遅く帰宅した洋平の手には紙袋が握られていた。
あれ程要らぬと言ったのに、余計なことを…。
「銀、これ…。」
洋平は私と目が合うと微かに頬が染まった。
多分私にしかわからないぐらい、微妙な変化で。
「シロに、頼まれたのか…。」
私はというと、あまりの恥ずかしさの為、洋平から目線を逸らした。
「いや、実はさ、あれ、俺がシロに頼んだんだ。」
観念したかのように洋平は呟く。
洋平も私に言えなかった、というわけだ。
シロが何をしに来たのかわからず仕舞いだったのはそういうことか。
「銀はこういうの嫌いそうだから、言いづらくて。」
私は一瞬にして再び洋平の方を向いた。
お前は何時もそうだ、私のことを考えてくれる。
お前にはお前の世界があるけれど、其処に私を入れようとしてくれる。
ごく自然に、私が嫌がらないように。
私は洋平の手からそれを受け取った。
「操作方法を教えてくれぬか。」
洋平の身体が私を包んだのはすぐのことだった。
END.
ん…?
↓
↓
おまけ:更にくだらないその後(亮平視点)
猫神の奴も携帯を持ったらしい。
シロはその日ご機嫌でうちに帰って来た。
いつものように、瞳をくるくる輝かせて、「亮平、亮平」
と、俺の名前を連呼しながら。
それを見た俺まで嬉しくなって機嫌がよくなった。
しかし、それよりご機嫌な奴を俺は知っている。
用事があって洋平の勤めている花屋に行った時のこと。
「お、銀からだ。」
あいつの休憩時間だった時、洋平はポケットから携帯を取りだして言った。
我が弟ながら、悪いけど気持ち悪ぃぞ、その顔は。
「ちょっと見せろよ。」
「え…やだよ、なんで…って見るなって!」
だって興味あるだろ、あの猫神がどんなメール打ってんのか。
悪いと思いつつも奪った携帯を覗いた。
「なんだこれ…。」
『葱一束、豚肉150g』
「え…、今日のメシの買い物、はは…。」
そこは照れるところなのか?
いや、まぁ内容は違えど、幸せってことだよな。
それなら何も言うことはない。
それがあいつのメッセージなんだから。
今度こそ本当にEND.
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