「LOVE MAGIC」番外編1「ハッピー・バースディ」
実は、ずっとでもないけど、気になっていたことがある。
夕メシを食い終わって、傍らにいる恋人、シロのこと。
「なぁ、お前の誕生日っていつだ?」
俺はその疑問をテレビを見ていたシロに告げた。
そう、俺はこいつの誕生日も、年齢も、
何もかもと言っても
いいぐらい、何も知らない。
本当は人間なのかなんなのか、それもわからないけど、そんなのはもうどうでもよかった。
俺を大好きってことだけ知ってるからいい。
でも、シロが働いているケーキ屋ではバースディケーキも当然あって、その話をするシロがいつも羨ましそうにしてたから。
ただ俺は、お前にもそういうのがあれば祝ってやりたくて。
俺も12月24日の自分の誕生日に祝ってもらったし。
別に俺はアニバーサリー男でもねぇけど、二人のそういう記念日みたいのがたくさんあったほうが楽しいと思ったから。
「オレの誕生日?ん〜、わかんないや。」
「やっぱそうだよな…。」
「なんでだ?」
「いや、ただ気になっただけだ。」
そりゃそうだ。
シロは猫だったし、母親も知らないって言ってたし。
俺が見つけた時はまだ小さい猫だった。
知るわけ…ねぇか。
シロを引き寄せて、後ろから俺の腕の中に収めた。
柔らかい髪に唇を寄せて、掌で撫でる。
ずっとケーキ屋にいるせいか、微かにバニラの甘い匂いがする。
「亮平、決めてくれるか?」
「は?何を??」
膝の上でシロは呟いて、俺のほうを見た。
黒くて濡れた大きな瞳が俺だけ見ている。
「オレの誕生日、亮平が決めてくれよ。」
「え…、俺が決めていいのかよ?」
「うん、オレ、亮平に決めてもらいたい。」
「そっか。」
お前はなんでそんなになんでも俺なんだ。
俺のため、とか、俺にしたい、とか、俺にして欲しい、とか。
そんなんばっかりだ。
俺は今までそんなにも自分を一途に好きで
いてくれた人間に会ったことがない。
それに俺も誰かのためにこんなに何かしたい、とか、こんなに人を好きになった記憶もない。
俺って、すげぇ幸せだよな。
「んじゃ、4月6日。シ、ロで。」
「えー、なんだよそれ、変だよ。」
シロの掌に4と6を指で書いた。
そうだよな…、さすがにこれは寒いか。
今年はもう終わってるしな。
「んじゃ、11月…。」
「やだ。」
「まだ言ってねぇぞ?」
「わかってるよ、どうせその、は、初めて……日とか言うんだ。」
バレたか。
もう俺が言いそうなこととか、考えてることまでわかるのか。
同じように俺も、見えなくても、ごにょごにょと言葉を誤魔化した
シロが赤くなっているのがわかる。
相変わらず可愛すぎて、思わずキスしたくなって、シロのほんのり熱くなった顔に触れて、自分のほうを向かせる。
「あ!じゃあ6月24日がいい!」
唇が触れる寸前、シロが突然大きな声を出した。
6月24日…?もうすぐだろ。
「そしたら半年ってやつに一回ケーキ食える〜。」
なんだよ…ケーキかよ。
時々俺と食いもんどっちが好きなんだ?
って聞きたくなったり
するけど、その答えはもうわかってるからいい。
もっとシロが可愛く思えるだけだ。
しかも結局お前が自分で決めてるし。
「亮平と同じ24日がいい。」
あぁもうダメだ…。
そんなこと言われて、俺はどうすりゃいいんだ。
無邪気に瞳をくるくるさせてるお前を、汚したくなるだろ。
それもお前はいいよ、って言うんだろうけど。
「そうだな、4と6もさり気なく入ってるしな。」
「うん!」
いや、別にそれに拘らなくてもいいんだけど。
目の前で満面の笑みを浮かべるシロの頬にキスをした。
こうして、シロの誕生日は3日後の6月24日に決定した。
何が欲しい?と聞くと、
『亮平が持ってるあれ』
床に放り出して置いた俺の携帯電話を指差した。
変な奴…、猫だったシロが携帯電話って。
俺と電話とかメールとかしたい、なんて言うんだろうか。
全然わかんなかった字もだいぶわかってきたもんな。
俺は可笑しいのと可愛いのが一緒になって、わかった、と即答した。
「ただいま。」
「あっ、おかえり亮平!」
当日仕事が終わって、寄り道をして1時間半ぐらい遅く帰って来た俺に、シロは走って玄関まで迎えに来た。
これじゃまるで犬みたいだな。
手に持った紙袋と箱を見て、シロは嬉しそうに笑った。
中身がなんなのかはわかっているけど、
期待に胸を膨らませて、
瞳がキラキラ輝いている。
誕生日のために用意した、ご馳走、と言うほどでもないけど、いつもより豪華なメシと、シロの大好きなケーキがテーブルに並ぶ。
「よし、んじゃ、シロ、ほら。」
ケーキにろうそくを立てて、部屋の電気を消した。
真っ暗な中に、青色から橙色にグラデーションのかかった炎がゆらゆら揺れている。
周りの空気もほんの僅かに熱で揺れて、いつもの家の中なのに、別の場所みたいだ。
「シロ、誕生日、おめでとう。」
「うん、ありがとう亮平!…あ、歌は?」
「いや、歌はちょっと勘弁してくれ。」
「下手なのか?」
そんなハッキリ言うなよ。
気にしてんだから、あんまり、もしかしたらすっげぇ歌下手なこと。
シロはぷっ、と笑った後、頬を膨らませて空気を吸い込んだ。
「おめでとう。」
一瞬にしてろうそくの炎が消えて、一瞬にして真っ暗になる。
溶けた蝋の匂いと少しの煙が漂う中、再び部屋の電気を点けた。
ろうそくは、たった1本。
勝手に歳を決めようか、適当な数にしようか色々考えたけど。
シロが何歳とかじゃなくて、俺と過ごす誕生日は一回目だから。
これから先、それが増えていく、そんな確信を込めて。
何年経ってもシロの誕生日を祝ってやりたい。
その一回目のプレゼントを俺が渡すと、嬉しさで堪らなくなったシロは俺に抱き付いてきて、俺もまた強く抱き締めた。
Happy birthday to you.
END.
/index