「魔法がとけたら…」番外編3「ウィンター・レイニー・ディ」




その日は深夜から雨が降り出していた。
いつものように仕事を終えた俺は、冬の寒さと雨の冷たさに身体を震わせて早朝に帰宅した。


「ただいまー……っと、あれ??」

シロがいない。
いつも俺が帰ると瞳をくるくるさせて、嬉しそうに駆け寄ってくるのに。
寝ていたとしても俺が帰って来る音で目を覚ますはずなのに。


「シロー…、シロー?」

心配になった俺は、夢中でシロの名前を呼ぶ。
喧嘩もしていないのに俺に黙っていなくなることなんて、初めてのあの時以来なかったのに…。


「亮平〜……。」
「なんだいたのかよ…わっ!なんだお前!どうした?!」

部屋の中を探そうと靴を脱いでいる時、中にいるはずのシロの声が後ろから聞こえた。
ホッと安心して溜め息を洩らしながら振り向くと、シロ本人がびしょ濡れで立っていた。


「亮平傘持ってかなかったら、風邪ひくと思ってオレ迎えに行こうとして…それで外出たら車が通って水がいっぱいかかった…。」
「シロ、お前俺がどこでバイトしてるかわかってるか?」
「う…。」
「しかも今来たって間に合わないだろ?わざわざよかったのに…。」

もごもごとそんなことを言っているシロは、全身水を被ったかのような濡れ具合だ。
そう、俺はバイト先のコンビニで傘を手に入れてしっかりさして帰って来たのだ。
雨が激しかったために結構濡れたけれど、シロよりは全然マシだった。
そんなにびしょ濡れになってしまったのに悪いけれど、シロのしようとしたことが嬉しくて顔が綻んでしまった。


「う……。ご、ごめん…。」

シロは下を向いてすっかり落ち込んでしまっている。
これじゃあ責めているつもりはないのに、俺が悪いことをしているみたいだ。


「謝るなよ。お前の気持ちは嬉しいんだ、ありがとう。ありがとうシロ。」
「ホントか?」
「ホントだって。」
「そっか〜、へっへー。」


シロの濡れた柔らかい髪をゆっくりと優しく撫でた。
こんなに濡れて、お前の方が風邪をひくだろうに…。
そうやって俺のことばっかり考えてくれているんだもんな…。


「じゃあ風呂だな。ほら、脱げ。」

シロはよほど急いでいたのか、コートも着ていなかった。
こんな薄着で雨に濡れてそのままにしていたら大変だ。
シロがいつも風呂を沸かしてくれていることはわかっていたから、すぐに風呂へ連れて行こうと濡れた服に手を掛けた。


「ここで脱ぐのか?」
「だって部屋濡れんだろ。」

その時俺は別にいやらしいことなんて考えてはいなかった。
それなのにシロが顔をちょっとだけ赤くして、服を脱ぐのを躊躇ったりするから…。
俺の中でいやらしい下心が勢いよく芽生えてしまった。


「えっと…、風呂入るだけか…?」
「なんだ、なんか他のこともしたいのか?」
「ち、違う…っ!」
「いいからほら、風邪ひくぞ。」
「う、うん…。」
「よし、ほら手上げろ。」

真っ赤になって力いっぱい否定するシロが可愛い。
他のことをしたいのは俺だったりする。
なんだか矛盾している自分が可笑しくて、シロにわからないように吹き出してしまった。





温かい湯気で湿った浴室で、シャワーの音が響いている。
俺もシロに続いて服を脱ぎ捨てて、その中に踏み入れた。


「ほら、ちゃんと目瞑れ。」

シロの濡れた髪に触れて、シャンプーを手に取って泡を立てる。
シロは髪を洗うのがどうやら苦手らしく、時々前髪の地肌のところに泡をつけたまま上がって来たりすることがあった。
そりゃあそうだよな…、前は自分で髪なんか洗ったりなんかしなかっただろうし。
その前に猫だったんだから「髪」なんてなかっただろうし。
俺と違って脱色やら染色やらしたこともない、柔らかいけどしっかりしている健康的なこの髪が俺は好きだ。
撫でたりするとするすると指の間を通る感触が気持ちがいいんだ。


「じゃあ流すぞ。」
「うん。」

泡を流そうとシャワーノズルを手に取って、シロの髪にお湯をかける。
シロは言われるままに瞳を閉じて、気持ちよさそうにしている。


「……ぁっ。────…っ!」

一通り洗い終えてシャワーを止めようと手を蛇口に伸ばした時、無意識のうちにノズルがシロの上半身を向いてしまった。
それが胸の先端に当たって声を上げたシロが、しまったと言わんばかりに口元を手で塞ぐ。
そんなことしてももう遅いのに、一生懸命堪えている姿が可愛くてついからかいたくなってしまう。


「何?どうした?」
「………あ…。」
「シロ…、お前感じてんのか?」
「あ…、違…っ、だって…。」

白々しくそんなことを言って、ノズルを握った俺の手はしっかりシロの胸を狙っていた。
シロもシロで、そんな表情で言われたって全然説得力なんかない。


「あ…、や……。」

強い水圧がシロの胸の先端を刺激して、そこが赤く膨らんでいる。
それは視線を落とした先の下半身にまで反応を起こさせる。


「亮平…っ。」

もう「なんか他のこと」をする決意ができたのか、シロが俺の首に手を回してキスをして来た。
なんだかシロを騙しているみたいで悪いけれど、ここで止められるわけなんてない。


「んっ、ふ……っ。」

シロがして来た軽いキスは俺によって深いものへと変わり、舌を絡ませるとシロも拙く応える。
キスを繰り返しながら、俺はシロの胸元を撫でる。
膨らんだそれを指の腹で刺激して、全身まで快感を広げるように愛撫し続けた。


「あ……はぁっ、もう…っ。」

勢いのいい水流に混じって、シロの中心からは先走りが溢れているのがわかった。
俺はやっぱり意地悪なんだろう、シロに強請って欲しくて水で刺激し続けた。


「おねが…っ。」

シロは快感に支配されて、言葉が上手く出て来ないみたいだ。
その代わりなのか、俺の手を震えながら掴んだ。


「イきそうか?」
「うん……っ。」
「俺の手がいい?」
「うん…っ、あっ、や……っ!」

お湯と先走りで濡れたシロのそこから、淫らな音が浴室中に響き渡る。
俺はゆるゆると手でそれを擦り、胸の先端を舌先で転がした。


「やっ、も…っ、ダメ…っ!」

我慢が出来なくなってしまったシロは全身を震わせて、背中を反らせる。
高い声が上がると同時に、俺の手の中でシロは達した。


「あ…オレ…っ。」

シロは激しく息を切らせて、涙を滲ませている。
浴室という場所のせいと恥ずかしさのせいで、頬が真っ赤に染まっている。
俺は向かい合ったシロの背中の方へ手を伸ばして、近くにあった石鹸の泡を絡ませた指を滑らかな丘の中央まで下ろした。


「ん…っ!」

ぬめりを帯びた俺の指が一本そこに入れられる。
その瞬間シロの身体はぴくりと跳ねた。


「あっ、ん……っ。」

体内を優しく撫で回して、だんだんと指の数を増やしていった。
さっきよりも一段と淫猥な音とシロの口から零れる甘い喘ぎが、俺の身体も心も興奮させた。


「う…ん…っ、オレもう…っ!」
「いいよ、来ても。」

俺は浴室の床に倒れ、シロの細い腰を支えてそこに自身を挿入する準備をした。
石鹸の泡とぬめりは全身に広がっていて、皮膚が擦れる感覚がいつもに増して気持ちいい。


「ん…‥っ!」

ゆっくりと、俺自身がシロの体内に飲み込まれていく。
自分からするのがまだ恥ずかしいんだろう、シロは顔を真っ赤にしながら遠慮がちに身体を沈めてくる。


「はぁ…っ、あ…っ。」
「もっと来な。」
「う…ぅんっ、ん……っ!」
「シロ、来て。」

シロの濡れた頬に涙が零れて、なんだかやたらと色っぽく見える。
睫毛の先に付いた丸い水滴が、まるで今日の雨粒みたいだ。


「ふぁ…あ…っ。」
「やだ?やめる?」
「や…っ、やめたくな…───っ!」

一気に俺自身がシロの体内に完全に収められた。
その中は灼けるように熱くて、繋がったところから蕩けていきそうだ。


「あぁ…っ、おねが…っ、亮平っ、もっと…っ。」

今は俺の方から言わなくても、シロの方からそんなことを言ってくれる。
恥ずかしがりながらも強請ってくれるのが嬉しくて、そんなシロが可愛くて、もっと快感を与えるように揺さ振った。


「や…、もうっ、また出ちゃ…っ、出る…っ!」
「いいよ、出して…っ。」
「んっ、やだ…っ、オレだけ…っ!亮平も…っ。」
「俺もイくから…っ。」

こんな時まで俺のこと考えなくたっていいのに。
こいつは本当に俺のことばっかりなんだ。
どうするんだよ俺…こんなに愛されて…。


「あ、ぁんっ!りょうへ…出る…っ!」
「うん……っ。」
「やっ、んんっ!あっ、んん─────…っ!!」
「シロ……っ!」







「あー…、さっぱりしたな、色々と。」

その言葉通り俺とシロは同時に絶頂を迎えて、綺麗に身体を洗い流して少し湯槽に浸かってから浴室から出た。
相変わらずシロは身体がガクガクしていて、大変そうだったけれど。


「なんだ?何?」
「亮平……。」

濡れた身体を拭いて髪も乾かして、寝る準備を整えて俺達は布団に入っていた。
シロが赤くなった大きな瞳で見上げた後、俺の胸元に顔を埋めながら俺の名前を呟く。

「何?何甘えてんだ?」
「亮平はなんでも一人でできるんだな…。」
「え……?」
「オレ…、役に立ちたかったのにな…。」

あぁ…そうか…。
傘を持って来たかったのはそういうことだったんだ。
俺が濡れないようにすれば役に立てると思ったのか。
こいつはここにいるだけでいいっていうことをわかってないんだろうか。
でもきっと実感したくてそういうことをしたくなったんだよな…。


「じゃあ今度またこういう日があったら迎えに来てくれよ。」
「亮平〜…。」

シャンプーの香りが漂う髪を撫でて、石鹸の香りが漂う身体を優しく抱き締めた。
あんなことをした後なのに、この香りみたいにシロの心は純粋で清い。


「待ってるから、な?」

湯上りでまだほんのり温かい額に、軽く触れるだけのキスをした。
雨の日に傘を持って待っているシロの姿を想像しながら。


「うん、そうする…。」

まだ雨は止んでいない。
俺は晴れの方が好きだけれど、シロが待っていてくれるなら早くまた雨の日が来るといいと思った。






END.






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