「ウェルカム!マンション」番外編「シークレット・ナイト」






本当に入ってしまった。
紫堂さんのファンから逃げた先にあった、ホ、ホテルというところに…。
いわゆるラブホテルってところではないけど。
俺は今まで誰ともエッチなんかしたことなかった。
キスだって紫堂さんが初めてだったんだ。
あれだけ恥ずかしい行為をしているのが声や音になってわかる。
それがあのマンションだと筒抜けなんだ、だから今まで時々断ってた。
別に断っても紫堂さんは怒ったりはしなかったけど。
それが逆にこんなことになるなんて…。


「悠真?何ボケっとしてるんだ?」
「う…、あのっ、俺、風呂入ってきますっ!」
「気合い入ってるじゃん。」
「ち、ち、違いますっっ!」

あげあしを取られて、その場から逃げるようにバスルームへと向かった。
ドアを思い切りバタン、と閉めて、溜め息を吐く。
やっぱりこの後エッチすんのかな…。
どうしよう、どんな顔してここ出て行けばいいんだ?
紫堂さんが風呂入ってる時どうすればいいんだろ?
髪とか乾かしておけばいいのかな…。
って、俺はどこの乙女だよ、こんなこと悩んで。
それから、ドキドキして…。
立派なバスルームの中でそんな自問自答を繰り返しながら、熱いシャワーを浴びる。
俺、男なのにな…、こんな身体で紫堂さん、いいのかな…。
俺は気持ちいいけど、するほうって、どうなんだろ?
またしてもそんなことばっかり考えてしまって、意味のないシャワーを浴び続けた。


「悠真。」
「なっ、なんですかっ!」

突然ドアががちゃり、と開いて、紫堂さんが俺を呼ぶのと同時に入ってきた。


「背中流しにきたんだよ。」
「いっ、いいですっ!」

咄嗟に横にあったタオルを掴んだ。
だって今俺、何も身に付けてないんだ、しかも明るいし。


「いいからホラ、座れよ。」
「う…、う、ハイ…。」

本当に背中を流しに来たのか、紫堂さんは俺を床に座らせた。
それにちゃんと服着てるし…。
俺、紫堂さんのことなんでもそっち方向に考え過ぎかもしれない。
ちゃんとわかってくれる人なのに…。
さっきから出続けているシャワーの湯気でバスルームには細かい霧のようにもやがかかっている。
湿気とその中に漂うシャンプーやボディソープの甘い匂いでクラクラする。


「紫堂さんは、俺の身体のどこがいいんですか…。」

ふと、さっきの疑問を口にした。
腕捲りをしていた紫堂さんがスポンジで俺の背中を撫でる。
デートに行く時の電車の中みたいに、直接触れられてもいないのに、そこから全身が熱くなっていくみたいだ。


「なんだよ突然。」
「だって俺わかんな……、って紫堂さ…っ!」
「なんだどうした?」
「ちょ…、そこ背中じゃな…っ。んっ!」

スポンジが床に落ちて、今度は紫堂さんの手が後ろから俺の胸の辺りを撫で回した。
瞬間的に身体がびくん、と跳ねて、変な声まで出てしまう。


「こういうとこ。」
「え…?んんっ!」
「敏感なところ。すっげぇ可愛いんだよなお前。」
「えぇっ、っていうか無理…っ、あ…!」

紫堂さんの言う通りなのかもしれない。
だって俺の胸の先端はもう硬く腫れ上がっていて、そこを撫でられる度に身体が揺れて、
その快感は早くも下半身にまで及んできているから。


「んぅ…っ、紫堂さ…、服濡れるから…っ。」
「クリーニングっつうもんがあるだろ、心配すんな。」

じゃなくて俺の身が心配なんだってば!
どうしよ…こんなところでするなんて。
いくら後ろからって言っても明るいし。
顔真っ赤なの、わかるじゃんか。


「あ…っ、やだっ!」
「いいから。」
「よくな…、んっ、あっ!」

形の変わってきていた俺の下半身の中心に紫堂さんの濡れた手が伸びて、そこを緩やかに擦られる。
その細くて長い指先には背中を洗った時の泡がついていて、また甘い匂いが鼻先を掠める。


「すっげやらし。」
「…っ、言わな…で…っ、んんっ。」
「だってこれ泡じゃないだろ?」
「なんでそういう…っ、紫堂さんダメ…っ!」

まだ数えるぐらいしかしてないのに、紫堂さんは俺の身体をよく知っている。
どこが感じるとか、昔から知ってたみたいに。
堪らずバスルームのクリーム色の壁に手をついて身体を支える。
床に落ちたシャワーの音と、俺のそこから発している音が、残響効果でいつもに増して鼓膜を刺激する。


「ダ…メ、も、イッちゃ…から…っ!!」

ぎゅっと目を閉じる。
その端からは涙まで零れて、閉じた瞼が熱い。
額から汗が滴り落ちて、洗った髪からも雫が零れて、自分では見えないけど、きっと顔はぐちゃぐちゃだ。


「…ん!やっ、あぁ───…っ!」

嬌声を上げて、俺は紫堂さんの手によって達してしまった。


「悠真っ?おいっ、悠真っ!」

そのまま意識が飛んで、紫堂さんが呼ぶ声だけが聞こえた。













「目、覚めたか?」
「…ん…、あの俺…??」

気付いた時は、ベッドに寝かせられていて、横には紫堂さんが座っていた。
どうやら俺はバスルームでのぼせて倒れたらしい。
何やってんだか…。


「お前40分もいたんだぜ、心配になるだろ。」

それなのに背中流しに、なんて言ってあんなことして。
ホントに紫堂さんってそういうとこ、可愛い。
人を傷付ける嘘は絶対つかないのに、自分を誤魔化すための嘘は巧いんだから。
それで後で自分で言っちゃって、照れてるし。


「んで?大丈夫なのかよ?」
「あ…、ハイ、すいませんでした…。」

冷たいタオルに代わって、紫堂さんの手が額に触れる。
すっかり冷えた額が、紫堂さんの手の温度で温かくなっていく。
すぐに俺の頬に触れて、その後時計が回って今日初めてのキスをした。
熱い舌が絡まって、苦しさに息を乱す。
唾液が口の端からつうっと零れて、またクラクラして、紫堂さんの首に全身を預けるように手を回した。
さっきのクラクラしたのはのぼせたせいもあったけど、今のこれは違う、あんまりにも紫堂さんが好きで…。


「あの…、す、するんですか?」
「はぁ?何言ってんだ今更。」
「でも…っ、んっ。」
「今大丈夫って言ったろお前。」

そんなぁ…。 そういう意味じゃないんだけど…。
なんて、俺も相当自分を誤魔化す嘘ばっかりだ。
触れられるの、嫌じゃない。
ただ、恥ずかしいから、それがバレるの嫌だったから。
でも紫堂さんはそういうのも全部知ってるんだよな…。
お情け程度に俺の身体に掛けられていたバスローブを紫堂さんは勢いよく取り去った。
電気もスタンドだけにして、なんだか俺は酔ってしまいそうだ。
こんなロマンチックな雰囲気も、俺は初めてで、気分はお姫様のようだ…男だけど。


「んぅ…ふ…っ、ん…。」
「悠真、好き。」

反則だ。こんな蕩けるようなキスも、そんな真っ直ぐな台詞も、真剣な眼差しも。


「ぁ…、紫堂さ…、俺も好きで…んっ!」
「やっぱり敏感だな、悠真は。」
「ちょ…、んん!あっ、あ…!」
「キスだけで勃ってるぜ?」

俺のそこはさっきのバスルームのこともあって、既に勃ってしまっていた。
恥ずかしいけど、こればっかりは仕方ない。
だってそれだけ紫堂さんのこと好きだってことなんだ。
わかって…くれるよな…。


「んっ!や…また…っ。」
「どうしたんだよ、まだ触ったばっかだぞ?」
「だって…っ、あっ、ん…っ。」
「悠真、エロいな、好きだよ。」

紫堂さんには言われたくないけど、 俺、今すっごいエッチな身体してるのが自分でわかる。
もう先端から先走りが溢れるぐらい出ている。
でもそれって、紫堂さんが触ってるからだよ…。


「や…、ホント、も…っ!!」
「ちょっと待てよ?」
「え…な、何…?…んっ!」
「どう?」

どう?なんて聞かないで欲しい。
脚を掲げられて、後ろの入り口に紫堂さんの指が挿入された。
やっぱり最初は異物感がして、シーツをぎゅっと握る。
先走りで濡らされた指の数が増えていくにつれて、快感が支配し始める。


「ふっ…あ…、んんっ、そんなしたら…っ。」
「そんなしたら?」
「ま、またイッちゃ…から…っ。」
「だから?」

もう、ホントにこんな時まで意地悪なんだから。
俺が言いたいことわかってるクセにわざとそういうこと聞くし。
後ろ弄られてイッちゃうなんて、恥ずかし過ぎるだろ。


「まぁいいか。」
「ん…、んっ、あっ、あ────…っ!」

解されたそこに、紫堂さんのものが入ってきた。
熱い塊が俺の体内の奥まで入ってきて、 腰を掴まれて揺さ振られる。


「あっ、やっ、俺…っ、恥ずかしっ、紫堂さ…っ!」
「大丈夫だって、誰も見てねぇし。」
「そんな…っ、んんーっ!」
「思い切り声出せよ、な?」

口元を塞いだ俺の手を紫堂さんは取って、そこにキスした後、自分の身体に回させた。
そしたらもうどうでもよくなって、必死で紫堂さんいしがみ付いて、身を任せた。


「あ…っ、紫堂さ…も、はや…っ。」
「わかってるよ…っ。」

繋がったところから淫猥な音が一層激しく響いて、俺は紫堂さんと一緒にイきたくて、 泣きながら懇願する。


「んっ、ダメも…っ、あっ、や、イっ───…!!」

その直後に俺は紫堂さんに向かって吐き出し、紫堂さんは俺の体内に勢いよく放った。











「まったく、二人して朝帰りとはな。」
「ごめんなさい…。」
「チッ…二人でするからいいんだろ…。」
「紫堂っ!」
「紫堂さんっ。」
「げ…、ごめんなさい。」

翌日、翠さんにメールしとくから大丈夫、と言った紫堂さんと俺は、その翠さん本人に玄関で迎えられ、こうして説教される羽目になった。
大丈夫って言ったクセに…忘れてたなんて。
それだけ俺としたかったのかな、紫堂さん。
それなら俺、怒られてもいいや。
それに怒られてちょっとだけしゅん、ってなってる紫堂さんも、昨日の夜みたいに可愛いから。
やっぱり翠さんには敵わないんだなぁ。
親代わりって言ってたけど、本当に親子以上に繋がってるんだ。
ちょっと妬けないこともないけど…。


「悠真、何ニヤけてるんだ。」
「すっ、すいません!」
「昨日のこと思い出してたんだよな?」
「ちょ…、やめて下さいってば!」
「早く〜っ、って言ったクセに。」

いっつもこうなるんだよな。
俺の恥ずかしいこととか平気でバラすんだから。
前にそれを責めた時、
『自慢したいだけだ』
なんて言うもんだから、何も言えなくなっちゃったんだっけ。
そんなに俺のこと好きなら、意地悪やめてくれないかなー。
まぁそこがまた俺も好きなんだろうけど。


「お前ら二人、風呂掃除一週間延長!」

子供じゃないんだから、そういう罰とかやめて欲しいんだけど。
でもそれぐらいで済むなら、またデートしたいな。
って、別にエッチはすごくしたいわけじゃないけど…。
突然することになったら、ここじゃやっぱり聞こえたらやだし…。


「悠真、昨日の風呂での、やるか。」

ホントに懲りてない。
でもそんなに笑ってくれるなら、ちょっとだけ、ホントにちょっとだけだけど、考えてもいい、
とか思ってる俺は、よっぽど紫堂さんが好きらしい。








END.








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