「Love Master.」番外編3「遠野くんVS名取くん?!」
俺と同室の遠野がホモカップル、いや、今ではホモ夫婦から進化し、ホモエロ夫婦になって一年。
相変わらずラブラブには程遠い。
それもこれも、そのお相手・遠野が難しいというか、言ってみればわけのわからない、俺にとって理解不能な奴だからだ。
それでも時折見せる遠野の素直な愛情表現に、俺は嬉しかったりする。
でもな…。
「名取、提案がある。」
こいつの提案、なんて絶対またわけわかんないに決まってる。
ある日そんなことを切り出してきた遠野に、俺は心の準備をした。
「えーと、とりあえず聞くだけ聞く。」
うっかりなんだなんだ?
なんて興味深々にしてしまったら、こいつの思う壷だ。
それでなくても、普段から俺はこいつに主導権を握られっ放しなんだ。
「じゃあ、俺の言う通りにしてくれ。」
「は?――――って、な、何っ?!」
自分のベッドに横になってくつろいでいた俺の上に、突然遠野が乗ってきた。
「たまには役割を交換してみないか?」
「はあぁ??」
やっぱりわけわかんねぇ!
この状態で役割というと、あれしかないよな。
そう、俺が、辛うじて死守してきた、エッチの時の役割だ。
まさか入れる、つまりは攻の座まで奪われるとは…。
いや、奪われるのは、それだけじゃねぇのか!!
「や、や、やめろ、なんだか知らないが落ち着け!落ち着くんだ遠野っ!!」
そんなことを言っている俺がまず落ち着かないといけないんだけど、まずはこいつをなんとかしなければ。
「いいか、名取。俺は負けるのが嫌いなんだ。」
勝ち負けじゃねーだろこれは!
俺は上からいつもの遠野からは考えられない力で押さえられ、身動きが出来ない程だ。
「フフフ…、可愛いな、名取。」
つーかなんか性格変わってないか?!
お前サドかよ!
「やめ…、放せって…。」
抵抗する俺の唇が、遠野によって塞がれた。
こんなキス、どこで覚えたんだよ。
舌が器用に絡められ、俺は息をするのも苦しい。
「嫌がっている振りをして…、欲しいって言ってごらん。」
「な、なんか変だぞお前……っ。」
いや、いつも変なんだけど。
なんか鬼畜っぽいぞ?変態っぽいぞ?
「言ってごらん、ミワ。」
「うわ!なんでその名前…って、マジ勘弁してくれよ…!」
俺の一番呼ばれたくない、恥ずかしい呼び名を耳元で囁かれる。
なんで知ってるんだこいつ…!
動揺して危うく本当にヤられそうな体勢になってるじゃないか。
だけどここで負けてたまるか。
俺の唯一の立場を取られて、それでも俺は夫か?!
「本当は欲しいクセに…。」
あれ??
なんかすっげぇ棒読みになってんですけど。
今がチャンスってやつか?
「遠野っ!」
「あぁ、なんだか違うな。」
「うわっ!」
急に遠野が俺の上から退けて、突き飛ばそうとした俺は、見事に勢い余って空かしを食らい、後ろに倒れた。
「いってぇ…!」
「どうした名取、大丈夫か?!」
お前のせいだっつーの。
一体なんなんだよ。
俺は倒れたまま、溜め息をついた。
「つーか何?なんなわけ?」
「いや、たまにはこう、バリエーションを加えないと。」
「なんのだよ!なんのためにだよ!」
「名取を飽きさせないためにだけど。」
え……‥っ。
そ、それってその…。
「名取に飽きられたら困る。」
「と、遠野…。」
やっべー、俺、今じーんときてるみたいだ。
こいつはわけわかんないけど、なんというか、その、俺一筋で…。
俺もそんなこいつが好きだったりして…。
「遠野…。」
「あ、でも負けず嫌いはそうだな。」
「そんなことのためにしなくていいって。」
既に俺、負けてるし。
あれ。
でも、こいついつもと別人みたいだったよな。
「なんかすっげぇリアルだったけどな、お前の迫り方。」
「当たり前だ。勉強したからな、美樹さんの本で。」
「ね、姉ちゃんの本っ?!」
それは、いわゆるホモエロ同人誌ってやつか。
い、いつの間に…。
俺は頭を抱えた。
「この間大量にもらったんだ。完全18禁というやつだな。」
「それでその呼び方聞いたのか…。」
「そうだけど。嫌なのか?ミワちゃんって呼ばれてたの。」
「当たり前だ!大体な、よしかずって、普通に男っぽい漢字にすりゃいいのによ。」
そう、俺の名前はよしかずで、漢字は美和と書くのだ。
しかもなんでそんな字にしたかと問い詰めたところ…。
『あんたが将来困らないためよ』
なんて抜かしやがって。
字だけなら、どっちにも読めるなんて。
俺と歳の離れた姉ちゃんが命名したらしい。
俺に将来オカマかホモにでもなれってのかよ。
まぁ実際姉ちゃんの計画通りってわけじゃないけど、ホモにはなってしまったが。
「俺嫌なんだよ、この名前。」
「名取、それは全国の美和さんに失礼だぞ。それに、他の奴が知らないことだし。」
「遠野…。」
そうか。
俺のことならなんでも知りたい、ってやつだな。
なんだかんだ言って俺に相当惚れてるな。
俺は今度こそ遠野にキスしようと、近付いた。
「でもさっきの名取は可愛かったな。こう、目が潤んで…。」
まさかなんかまたよからぬこと考えてんじゃないよな。
いや!俺はこいつに負けるわけにはいかねぇ!
俺は男だ、夫だ!
「遠野っ!その本貸せっ!勉強してやるっ!」
なんて、そんな風にムキになってる俺は、もう負けている。
まさに遠野の思う壷で。
それでもいいとか思ってしまうんだよな。
「頼もしいな。」
なんだかんだ言って俺も、相当こいつに惚れているのだ。
END.
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