「Love Master.」番外編2「遠野くんと名取くん2」








あの結婚宣言からしばらく経って、すっかり公認ホモ夫婦として定着した俺と遠野は、ラブラブな毎日を…‥。


「…‥り、名取。起きろ、朝だ。」
「ん〜、今日日曜だぜ、もうちょっと…。」
「そんなことだと勉強遅れるぞ。それに…。」
「あ〜ハイハイわかったって。」

送っているわけでもなく、遠野は相変わらず、俺も相変わらず、だ。
まったく…。昨日の夜はあんなに可愛かったのにな…。
俺は乱れる遠野の姿を思い出して、浸っていた。
その辺に関してはまぁ、ラブラブって言えるかもな。


「どうしたんだ名取、ヨダレなんか垂らして。なんか食い物の夢でも見たのか?」

あーもう!!なんでこいつこんな色気ないんだよ!
よし、ここはひとつ強引にそっちに持ってって…。


「お前だよ、遠野。お前が美味くてさ。」

決まったな、俺。
これで遠野も…。
俺は遠野の腕を引っ張って、瞬時にキスをしようと、唇を近付けた。


「悪い物でも食ったのか?」
「違う!お前と昨日ヤったこと思い出してたんだよ!ちょっとはお前も…。」
「いいけど名取、お前の姉ちゃん見てるぞ。」
「は?何寝呆けたこと…‥‥ん??」

姉ちゃん?姉ちゃんだと?!
俺は一瞬にして現実世界に引き戻された。
俺に用があって面会に訪れた姉ちゃんが、ドアのところに立っていた。


「うっわ、あたし生は初めて見たわ。」
「あ、いや、違っ、これは俺が寝呆けてて、いやぁ、何やってんだろうな、俺!」

何が違うんだかわかんないけど、遠野のことだ。
名取くんと付き合ってます、なんて言いかねないからな。
そんなことこの姉ちゃんにバレてみろ、普通なら悲しむところ、絶対喜ぶぞ。


「あ、君が遠野くんか。この間はありがとう。」
「いえいえ。とんでもないです。」

ちょっと待て!なんかこの二人、知り合ってるっぽくないか?
俺遠野のこと話した覚えなんかないぞ。
なんだ?何がどうなってるんだ?!
和やかに挨拶を交わす二人をよそに、俺は一人慌てふためいていた。








「どういうことだ?」
「何がだ?」
「だから、なんで姉ちゃんと知り合いなんだ?」
「あぁ、お歳暮送ったから、ハムだけど。」

俺は遠野の腕を引っ張り、部屋の外のソファがある場所で問い詰める。
お歳暮って…しかもまたハムなんてベタな…。


「まさか変なこと言ってないよな…?」
「変なこと?あぁ、名取の婚約者です、とは言ったな。」

な、な、何────??
そんなこと堂々と言うことじゃないだろ!


「俺は嘘は嫌いだ。」

嫌いとかそういう問題じゃねーよ!
だってホモだぞ?


「誤魔化すのも嫌いだから…。」
「え…それってえっと…。」
「名取にそういうこともさせたくない。」
「と、遠野…。」

そ、そんな潤んだ目で見るなよ…。
そんなに俺のことを考えてくれんのか。
俺に、家族に嘘つかせたくないからってことか?


「名取はそういうの、嫌じゃないのか…?」
「とっ、遠野───。」

ダメだ、もう限界だ、我慢できない!!


「名取…っ、ん。」

俺は遠野を思い切り抱き締めて、キスをする。
普段は主導権を握っている遠野も、エッチの時だけは別だ。


「名取っ、マズいって、部屋行った方が…っ。」

舌を滑り込ませて、口内を掻き回す。
唾液を絡ませて、遠野が息もできないぐらい。
こうなると俺は止まらない。俺、絶好調。


「部屋行ったら姉ちゃんに見られるだろ。」

ちょっと強引に持ってけばあとはこっちのもんだと言わんばかりに貪る。


「いや、部屋に行かないとお前の姉ちゃんに…っ。」
「は?何わけわかんねぇこと…‥。ん?」

────げっ!!!


「へぇ〜、あんたなかなかやるじゃない。こんな場所で。」
「いやっ、これには深いわけがありましてっ。」

姉ちゃんの前で俺は慌てて遠野から離れた。
こんなん見たら余計喜ぶだろ、この姉ちゃんは。


「あたし、今度オリジナル描こうかな。」

ニヤリと姉ちゃんが不敵な笑いを浮かべて、俺は青ざめた。


「や、やめてくれ!なんでもするから!頼む!遠野っ、お前もなんか言ってくれよっ。」
「頑張って下さい、お姉さん。」

頑張らせるなー!
冗談じゃない、そんなことになったら姉ちゃんの前で色々させられたりするに決まってる。


「別にあんたたちを描くなんて言ってないけど…、やだ、なんか考えたわね。」
「別に何も考えてねーよ!」
「我が弟ながらスケベねぇ〜。」

あぁ〜、もう。
なんで俺、こんな、姉ちゃんに勝てないんだよ。


「つーか姉ちゃん何しに来たんだよ。」

そうだよ。そもそも用があるって来たんだ。
寮まで来るんだから、よっぽどのことだよな。


「あ、そうそう、忘れてた。あたし、結婚すんの。」
「へ…?結婚…?」

俺は間抜けな声を出してしまった。
結婚、って言ったよな、今確かに。


「おめでとうございます、お姉さん!」

珍しく遠野が感情を表に出して感激しているようだった。


「相手は姉ちゃんがやってること知ってんのか?」

だって…。
ホモエロ同人やってるなんて知ったらひくだろ、普通は。


「当たり前よ。家族になる人に隠すの嫌じゃない。」

あ…‥。そうか。
遠野も同じような気持ちだったのか…‥。
俺、なんかじーんとしてきたぞ…。


「それに彼、同業なのよねぇ〜、向こうは美少女ものだけど。」

げっ、感動に浸ってたらそれかよ…。
同業ってことはあれか、同人やってるってことか。
な、なんか複雑だな、結婚自体は嬉しいけど。


「そういうわけで、ご報告終わり。と、あとこれ。」

そんな簡単に終わらせんのかよ。
でも、昔から姉ちゃんって自由奔放だったっけな。


「まぁ、今年はあんたにあげる人もいるみたいだけど?」
「え…‥あ、チョコ…。」

姉ちゃんは鞄の中から大きな包みを取り出して、俺に寄越した。
そうだ、それで姉ちゃんがくれるチョコは昔からデカかったな。


「言っとくけど手作りじゃないわよ。そういうのは、そこの人からもらいなさい。」

へ…‥‥?
そこの人って、俺と姉ちゃん以外に遠野しかいないよな…。
姉ちゃんはそう言って去って行った。
チョコレート、プラス新刊の同人誌を置いて…。
そうだ、毎年絶対入ってるんだよな、これ…。
チョコレートのほうがついでみたいに分厚い気合い入りまくりのやつ。


「そういうわけで。」

遠野は俺にチョコを差し出した。


「ま…さか、お前…。」
「俺が愛を込めて作った。」

愛、とか言うなよ!
顔色も変えないでんな恥ずかしいこと…。
俺の方が真っ赤になってしまって、遠野は顔を覗き込んできた。

「名取?どうした?」
「恥ずかしいんだよ。こんなん。だけど……。」

すげぇ嬉しいかも。
俺はこいつとなら一生うまくやってけそうな…。


「でも、明日からの方が恥ずかしいと思うぞ。」
「は…‥‥?」

俺がその意味を知ったのは次の日の学校だった。












「よっ、ホモエロ夫婦。」
「名取くんたらスケベ。」

あの時夢中で、あそこが公の場なんてすっかり忘れていた俺たちは、いや正確には俺は、公認ホモ夫婦から公認ホモエロ夫婦と名を変えた。
遠野は相変わらずそれを堂々と認めるし。
もう離れられないだろ、これじゃ。
離れるつもりもなかったりするけど。


「名取、これ。」
「ん?なんだ?」
「3月14日は期待してるからな。」

って…、俺も手作りかよ!
お菓子作りの本とかいらねぇし!


「名取は俺のこと愛してないのか?」

うわっバカっ。
そんな可愛い顔すんじゃねぇよ。
ときめくだろうが。


「名取…?」

ダメだ!俺の負けだ!


「いや、あ、愛してます…‥。」

俺の人生はきっと、ずっとこんな感じなんだろうな。
それでもいい。
遠野、お前と一緒なら。










END.







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