「Love Master.」番外編1「遠野くんと名取くん」
「じゃあこの進路希望は今週中に提出すること。」
俺と遠野は二年生になった。
そう、なんだかんだ言ってもう俺達が公認ホモカップルになってもうすぐ一年。
相変わらず遠野はわけわかんなくて振り回されっ放しだけど、それもいいかな、なんて思う俺はきっと重症に違いない。
まさにベタ惚れみたいな。
だけど進路なんて多分バラバラだろうな。
俺も別にバカなわけじゃないけど、遠野はズバ抜けて頭いいしな。
まぁ別に大学違ったから会えなくなるわけでもないし。
終わるわけでも…ない、よな、うん。
いざとなったら同棲って手もあるか…我ながらナイスアイディアだな。
「…り、名取。」
「うあっ、な、なんだよっ。」
その俺のお相手、遠野が俺の顔を覗き込んでいた。
「なんだ名取、違うじゃないか。」
「は?何が?…って何してんだ?」
遠野は机の上に置かれた進路希望の紙を見ると、
『第一希望 〇〇大学××学部』
と書かれたところを修正液で消した。
「おま…っ、何っ!」
『遠野くんのお嫁さん』
太いペンで大きく書かれたそれを見て俺は唖然とした。
「へー、お前らとうとう結婚かー。」
「遠野が嫁だと思ってたけど違うのか?」
「俺は一流大学に入って一流企業に就職して名取に苦労かけないようにするつもりだ。」
「か、勝手に決めんなよっ!」
あー、やっぱりわかんねぇな。
なんでこう突拍子もなく公衆の面前で…。
「じゃあなんだ、お前らエッチん時は名取が女役かぁ〜。」
「意外だなぁ。」
「違う!遠野が女役だっ!!嫁は俺じゃねえっ、遠野が嫁だっ!!」
クラスの連中が下世話なことを次々と言って来て、俺はついムカついて反論してしまった。
あれ…。
俺は今とんでもないことを言わなかったか??
教室中がシーン、と静まり返っていた。
「嬉しい、名取、俺ら幸せになろうな。」
遠野が俺の手を握りしめ、見つめる。
「あー、いやー…、あの…。」
俺は慌てふためいて遠野の手を離そうとした。
ダラダラと冷や汗が出る。
「いやぁー、ラブラブだなぁ、よっ、御両人!」
「羨ましいなぁ名取、綺麗な嫁さんで。」
おいコラ、お前らは結婚式にひやかしに来た新郎の元同級生かよ!
「みんな、ありがとう、式には来てくれよ。」
遠野が挨拶までして、俺は困り果てて机に突っ伏した。
もうダメだ…。
「名取?名取?どうした?」
「いや、もー、どうしたも何も…。」
疲れるっつーの。
しかもお前のせいだってわかってないのかよ…。
俺は深い溜め息を洩らした。
そんな俺に、遠野が物凄く近距離まで寄ってきた。
「だって俺、名取とずっと一緒にいたいから。」
何をされるのかと思いきや、そんなことを耳元で囁かれたら…。
お、
俺はもう…。
堪らんだろ、これは!
俺は遠野の手を取って立ち上がった。
「俺たち結婚します!!」
それから俺と遠野は公認ホモカップル、から公認ホモ夫婦、になったのは言うまでもない。
ついでに俺は尻に敷かれている夫、らしい。
多分、いや、きっとそうなると思うけど。
END.
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